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希望退職に潜むリスク たっぷり割増退職金に油断禁物

ミドル世代専門転職コンサルタント 黒田真行

退職金を受け取って、転職の動きを鈍らせてしまう人が珍しくない。写真はイメージ=PIXTA =PIXTA

希望退職の募集に動く企業が相次いでいます。希望退職制度はセカンドキャリアにどんな影響をもたらすのでしょうか。今回は、増加する希望退職制度の活用に潜むリスクをお伝えしたいと思います。

日本ハム約3850万円、協和発酵キリン約1723万円、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス約916万円、富士通約1618万円――。2018年から今年にかけて希望退職を実施した企業の「一人あたりの特別損失」を割増退職金として仮定した金額です。17年に希望退職を実施した三越伊勢丹ホールディングスでは、最大5000万円ともされた退職金増額が話題となりました。

つい先日、転職相談で会った48歳の男性Mさんは、早期希望退職制度に応募して、会社を辞め、転職活動をしているそうです。地方の国立大学を卒業後、大手機械メーカーに就職、関連会社への出向なども経験。約25年間勤めてきた販促マーケティングのプロフェッショナルとして、かなりレベルが高い実績を上げて活躍してきました。

特に、展示会やセミナーを通じて法人顧客を集め、集客後にアウトバウンドのコールセンターでアポイントを取り、現場の営業につなげていくというスタイルを磨き上げてきたことが最大の強みということでした。仕事ができるからこそ、同じ役割を長く担当し、またその経験値がスキルを深めていくという、典型的な深耕型スペシャリストです。

「できれば、同じような法人向けのマーケティングで、営業の後方支援的な仕事で貢献できる場所を探しているので、メーカーでの販促マーケティングのポジションがあれば紹介してほしい」というのが依頼の内容でした。

「希望年収は前職と同程度の900万円以上。下がるとしても800万円以上は確保したいです。体力的に若くはないので、残業は前職時代の月間50時間よりは減らしたいと思っています」というのが希望条件。「外回りの営業は経験がないので今さら無理です」というのが除外条件でした。

会った際に、面談前にメールで送ってもらっていた履歴書と職務経歴書の内容で、一つ気になっていることがあり、質問しました。

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「退職金があるから転職は急がない」のリスク

私「Mさん、希望退職で辞められたのは昨年の9月末ですが、それ以降の約10カ月の間はどのように過ごしておられたのですか?」

Mさん「退職後は少しゆっくりしようと思い、昨年末までは骨休みをしていました。転職活動もスローペースで、求人サイトに登録した程度でした。年明けから、何社かの転職エージェントに登録して本格的に活動を始めました。エージェントさんからは多数の求人を案内もらいました。ほとんどが私の希望条件とは異なる、住宅や保険の営業などでしたが、そのうち20社くらいにはこの半年ちょっとの間に応募してみました。面接に進めたのは2社だけで、かなり厳しいなということがわかってきた状況です」

私「なるほど。なかなかご苦労されているのですね。ちなみにMさんとしては、いつぐらいまでに仕事を始めたいとお考えですか?」

Mさん「もちろんできれば早く仕事を再開できるほうがいいのですが、遅くとも来年の期初4月にはスタートしていたいですね。まずは退職金の割増があったので、生活が今すぐ苦しくなるということはないので、少なくとも年内はこのペースで希望の条件にあった求人を探していきたいと思っています」

具体的にMさんの退職金や貯金額までは尋ねませんでしたが、「退職金で一生暮らせるほどの金額ではない」ということでしたから、転職活動をぜひスピードアップしてもらいたいということ、Mさんの経験から考えると、業界や職種ももっと幅広い可能性があるのではないかということを話して、今も仕事探しの伴走を進めているところです。しかし、このMさんのケースには、早期希望退職を選択する人すべてに共通するリスクが凝縮されています。

それは、金額の大きな割増退職金(プラス通常の退職金)が一気に入金されることで余裕を感じてしまうことです。もちろん計画性が高い人や心配性の人は別かもしれませんが、サラリーマンやOLとしての生活が長い人ほど、非日常的な入金額になるので、用心しておくに越したことはありません。

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早期希望退職時の退職金割増分の相場は

一般的には早期希望退職時の退職金割増分の金額は「年収の2倍」というのが相場のようです。経団連が2019年1月に発表した定期賃金調査結果によると、大卒45歳(総合職)の平均年収は528万円ですから、約1000万円が、通常の退職金に加算されるということになります。

Mさんの年齢は現在48歳ですから、年金受給開始の65歳まで17年間もあります。ただでさえ年金だけでは生活できないという不安なニュースが流れているのですから、一時的な割増退職金に安心しているわけにはいかないという人が大半だと思います。

また、企業は、合理的な理由がないまま、長く無業期間が続くことを、非常をネガティブにとらえるケースが多く、内定獲得の成功率にマイナスな影響を及ぼしかねません。転職活動が長期化すると、心理的に疲弊してしまったり、負け癖がついてしまうことにもなりかねません。悪循環に入ると、さらに長期化してしまう恐れもあります。

これから転職活動を始める人には、やはり、前職の就業中に転職先を決めることを理想の状態と置いて、退職後、3カ月以内、長くても半年以内には新天地を決める覚悟で臨んでほしいと思います。

場合によっては希望条件(特に最低限必要な年収や業界・職種など)を抜本的に見直す必要があるかもしれません。また、なかなか新天地が見つからない場合には、友人や親族の会社をワンポイントで手伝うという選択肢や、顧問や短期の契約社員、アルバイトなど、スポットの仕事をしながら、転職活動をするという方法もあります。

人生100年時代といわれる状況、かつ年金受給開始年齢も変化していくリスクもあるなか、あなたは何歳まで働き続けるか想定をしていますか。これまでの蓄えや、相続などで、圧倒的に余裕がある人は別として、十分な預貯金や相続資産がなく、雇用されて収入を得るケースでは、会社員として仕事をリタイアする時期や、それまでの生活費、そして老後にかかるコストを、概算でもいいのでイメージしておくことは、不可欠です。

「これまでもなんとかなってきたから、これからもなんとかなるだろう」という楽観は禁物です。年齢が上がると、市場からの需要ボリュームは確実に減少し、かつ自分自身の身体的な能力も衰えていきます。たとえ杞憂に終わったとしても、最も悲観的なシナリオを描き、それを事前に予防する打ち手を準備し、いつでも行使できるようにしておくことが重要だと思います。

お金や時間だけでは得られない充足感は、特に自分自身の経験や力量が必要とされ、期待され続ける場所にあるはずです。ぜひ金銭的な条件よりも、心理的な充足感を重視した意思決定をしていただければ幸いです。

黒田真行

 ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。1989年リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。14年ルーセントドアーズを設立。著書に本連載を書籍化した「転職に向いている人 転職してはいけない人」など。
「Career Release40」http://lucentdoors.co.jp/cr40/

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